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固くて、うまい。それには、理由がある。

「甚四郎さんとこの豆腐、ちょっと固めですよね」 初めて食べた方に、そう言われることがよくあります。 たしかに、郡上・明宝でつくられている木綿豆腐は、全体的に“しっかり固め”の仕上がり。 手に持っても崩れにくく、スプーンではすくえない。箸で割っても、形が残る。 その「固さ」こそが、じつはこの地域の豆腐の“うまさの設計”なのです。


■ 固さには、暮らしの理由がある

昔の郡上は、今よりもっと山深くて、交通も買い物も不便でした。 豆腐屋の豆腐は、背中のかごやリヤカーで運ばれ、山の集落に届けられていました。 道は悪く、距離も遠い。柔らかい豆腐では、途中で崩れてしまう。 そこで生まれたのが、「崩れない豆腐=固めの豆腐」です。

さらに、当時は冷蔵庫もなかった時代。 しっかり水を切って固めに仕上げることで、傷みにくく、長持ちしやすい豆腐として工夫されてきました。 煮物や鍋、味噌汁にも合い、崩れにくいから味もよく染みる。 「固いけど、しっかりうまい」豆腐として、郡上の食卓に根づいていったのです。


■ 固いからこそ、肉豆腐がうまくなる

実は「固い豆腐が苦手」と言っていたお客さまが、ある日こう言いました。 「甚四郎の豆腐で肉豆腐つくったら、ふわっふわになって最高だった」——と。

これ、まさに豆腐の本領発揮なんです。 固めの豆腐は、煮ても崩れず形を保ちつつ、内部にしっかり味が染み込む。 時間をかけて煮ることで、中がとろっと、外はしっかりという二層構造に。 これは、やわらかい豆腐ではなかなか出せない表情です。


■ まずは「塩で食え」

そしてもう一つ、甚四郎の豆腐を食べるときに、ぜひおすすめしたい食べ方があります。 それが——「塩で食べる」

豆腐といえば、醤油。もちろん合います。 でも、本当に大豆の味がする豆腐は、塩だけで十分うまいんです。

郡上産の大豆をたっぷり3.5kg(通常の1.3倍)使って、昔ながらの釜で炊いた豆腐。 そこに、ほんのひとつまみの塩をふる。 噛んだ瞬間に立ち上がる香ばしさ、じわっと広がる大豆の甘み、 そして、後味のすっきり感—— 塩は、豆腐の「ごまかし」がきかない調味料です。

「塩だけで食べてうまいかどうか」は、豆腐の実力試験だと思っています。


■ ちぎって、塩をふる。それだけ。

冷奴で出すときは、包丁は使いません。 手でざっくりちぎる。表面の凸凹に塩がふわっと乗る。 見た目はちょっと不揃いだけど、その無骨さもまた、豆腐の味わいの一部です。

たまには、わさびや胡椒を添えても面白い。 でも、まずは塩で。 豆腐の味に自信があるからこそ、何も足さない食べ方をおすすめしたい。


■ 固さは、昔の知恵であり、今の個性

郡上の固い豆腐には、理由があります。 山の暮らし、日々の知恵、手仕事の工夫。 それを今、こうして再び火を入れながら作り続けているのが「甚四郎の豆腐」です。

柔らかさじゃなくて、味の深さで勝負したい。 これからも、この豆腐らしさを守っていきたいと思っています。


✍️ 次回予告:「うのはなは、捨てられるものじゃない」 ——しっとり、やさしい“もうひとつの豆腐”の話。

 

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固くて、うまい。それには、理由がある。